山田育穂 教授

Ikuho Yamada

空間情報科学研究室

<専門分野>
空間情報科学
<研究テーマ>
GISを基盤とする時空間解析・住環境解析

Profile :
東京都出身。東京大学工学部都市工学科卒業。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了後、米国ニューヨーク州立大学バッファロー校に留学、同校地理学科において博士課程修了(Ph.D.)。米国インディアナ大学=パデュー大学インディアナポリス校助教授、ユタ大学助教授、東京大学空間情報科学研究センター准教授等を経て、2013年4月より現職。専門分野は、空間情報科学・地理情報システム(GIS)、空間統計学、都市空間解析・都市計画。「都市の住環境から健康をつくる」をテーマに、空間情報科学や空間統計学の手法を活用して健康的なまちづくりを目指した研究活動を行っている。

学生に期待する
3つの資質

  • 資質1 目標をもって前に進む行動力
  • 資質2幅広い好奇心と自由で柔軟な発想
  • 資質3異分野とつながるコミュニケーション能力
空間情報科学で、
人間が健康的に暮らせる都市づくりを考える。

健康と環境の関連性を探る

人がその人らしく生きていくためには、「健康」が大切です。そして、人の健康を形づくっている大きな要素のひとつに、「環境」があります。
「健康」と「環境」の関連性を探る研究は、その起源が古代ギリシアに求められるほど長い歴史をもつ分野ですが、近年、肥満や生活習慣病が深刻な問題となっている欧米を中心に、あらためて注目されるようになりました。

私の研究室では、空間情報科学を用いて人々が住む環境を客観的に測定し、「健康」と「環境」の関連性を科学的に明らかにするための研究を行っています。住民が健やかに暮らせるまちづくりに役立てることが目標です。

空間情報科学の見地から、暮らしの中の問題を解決

(Data Sources: Utah Population Database,
Utah Automated Geographic Reference Center)
私が専門とする「空間情報科学」は、空間に関わる情報をコンピュータ上で体系付けて扱っていくための理論、技術、制度などを、包括的に研究する学問分野です。
その中心となっているのは、どこで何が起こっているかという位置の情報と、その場所に関わる属性の情報を組み合わせた「空間データ」です。このところ、ビッグデータという言葉をよく耳にしますが、情報技術の発達によって空間データも量・質・種類などすべての面で飛躍的に拡大していますから、空間情報科学の可能性も大きく発展しています。

人間、社会、環境などをテーマとして考えると、おのずと空間の要素が関わってきます。地球規模の環境問題から、都市における交通混雑や公共施設の立地、更に今日どこで昼食を取るかといった極めて個人的な選択まで、スケールは違いますが、すべて空間の中で、その制約や支援の下で起こっています。空間情報科学は幅広いテーマの追求に活用できる可能性を持っているのです。

たとえば、私が研究活動を行っていたアメリカは、成人人口の2/3以上が肥満という深刻な健康問題を抱えており、都市の環境が住民の肥満レベルに影響を及ぼすという仮定の下で、さまざまな研究が進められています。私たちの研究グループは、ユタ州ソルトレイクシティを対象地域として、空間情報科学のメソッドを駆使して、都市のウォーカビリティ(歩きやすさ)と住民の肥満レベルの関係を調査しました。その結果、土地利用の多様性や公共交通の利便性、緑の充実度などの指標が高い地域では、住民の肥満レベルが低いことが明らかになりました。つまり、都市のウォーカビリティを高めることによって、肥満問題が改善・解消される可能性があるということです。

欧米諸国と比べて、肥満は日本ではそれほど深刻な問題ではありませんが、超高齢社会を目前に控え、日常生活の中から健康を支えるまちづくりは非常に重要なテーマです。防災の面からも都市の歩きやすさはキーとなりますから、今後は、日本独自の問題点や状況を踏まえて、ウォーカビリティ研究を発展させていきたいと考えています。

自由な発想で、興味のもてるテーマを見つけてほしい

空間情報科学は、ここ30年ほどで急激に発展を遂げた新しい学問で、まだまだ開拓の余地があるというのが魅力のひとつです。学生の皆さんには、「健康」のみにこだわらず、自由な発想で研究テーマを見つけてもらいたいです。そのためには、まず日頃から広くアンテナを張ることが大切です。そして、そこに触れたものに対し、好奇心をもって理解しようと努力する姿勢を身につけてください。どこでどのような問題が起きているかを理解したら、今度はその問題に対して、空間情報科学ではどんなアプローチができるのか、他の分野ではどうかといったことを、できるだけ具体的に考えてみましょう。空間情報科学は、「空間」を通じて幅広いテーマとつながることのできる柔軟な学問分野ですから、学科で培う複眼的な思考力を活かして、自分ならではのオリジナリティ溢れるテーマを、深く追求していってほしいと思っています。

異分野の専門家とつながる力を

人間総合理工学科は、「人間」をキーワードに、広範囲な分野にまたがる勉強ができる学科です。
ひとつの問題に対して、きちんとしたデータを用いた科学的なアプローチで解決策を導くための方法論も、それぞれの分野の視点から学びます。
多様な主体や事象が複雑に絡み合う現代社会では、研究においても、社会に出てからも、自分の専門分野の中だけで解決できる問題はほとんどありませんから、この複眼的な力は大きな強みとなります。

私の選んだ「健康」というテーマにしても、医学・医療だけでは解決できない問題であるという認識が高まったことで、食・運動などの生活習慣、さらにそれを支える住環境まで、徐々に視野が広がってきました。
学生の皆さんには、この学科の恵まれた環境を利用して柔軟な姿勢を養い、さまざまな分野の専門家とつながることのできるコミュニケーション能力を育ててほしいと思います。

山田先生の研究を理解するためのキーワード4

  • 1. ウォーカビリティと健康

    ウォーカビリティ(都市の歩きやすさ)は、肥満が深刻な社会問題となっている欧米諸国を中心に広がりを見せている研究テーマである。ウォーカビリティを意識したまちづくりによって、自動車依存度を減らし、日常生活の中の運動量(歩行量)を自然に増やすことで、住民の健康促進を目指す。山田先生の研究では、個人の徒歩生活圏の環境と住民の肥満レベルの関連性を、地理情報システム(GIS)と空間解析の手法を用いて調査している。
  • 2. 時空間モニタリング

    人工衛星によるリモートセンシングを始めとするデータ取得技術の革新的な発展により、詳細な空間データがほぼリアルタイムで大量に入手可能になっている。空間分析では従来、過去のある一時点におけるデータを扱うのが一般的であった。が、現在のように空間データが定期的に更新される状況下では、空間パターンの時間的変化をいち早く検知するための「時空間モニタリング」が可能となってきている。GeoSurveillanceは時空間モニタリングのためのソフトウェアで、山田先生とロジャーソン教授(ニューヨーク州立大学バッファロー校)によって開発された。統計学的な手法と可視化により、疾病分布の時空間的変化などを解析することができる。
  • 3. 空間統計学を駆使した都市空間分析

    GISに加えて、山田先生の研究の手法的な基盤となっているのは、空間統計学である。これは従来の統計学に、「ものごとは地表面という空間の上で起こっている」という認識を明示的に組み込んだもので、空間データに含まれる位置の情報を効果的に利用して解析を行う。交通事故や疾病の地域的な発生状況の偏りや、住環境要素と住民の健康の関連性など、都市空間で起こる事象を読み解く有効なツールである。山田先生の共著 Statistical Detection and Surveillance of Geographic Clusters (Rogerson and Yamada 2009)は、空間統計学の教科書として書かれている。
  • 4. 国際社会で活躍できる人材の育成

    これからの社会で活躍していくためには、英語力は必須である。博士課程での留学、その後のアメリカでの研究教育活動と、海外経験の長い山田先生は、学生の英語力の向上にも力を入れている。「実際のコミュニケーションに役立つ英語の力は、試験だけで測れるものではありません。留学を真剣に目指す学生や、やる気のある学生に対しては、私が直接、会話や英文構成の指導をすることもあります。生きた英語を身につけてほしいですから」と山田先生。