幡野博之 教授

Hiroyuki Hatano

環境・エネルギー研究室

<専門分野>
エネルギー工学、化学工学
<研究テーマ>
流動層技術を基盤とするガス化・燃焼、水素製造

Profile :
1953年、静岡県生まれ。1983年、東京工業大学大学院総合理工学研究化学環境工学専攻博士後期課程修了。東京工業大学資源化学研究所生産設備部門助手を経て、1990年、通産省工業技術院公害資源研究所燃焼技術部燃焼機器研究室主任研究官。その後、資源環境技術総合研究所熱エネルギー利用技術部燃焼システム研究室長、独立行政法人産業技術総合研究所エネルギー利用技術研究部門クリーン燃料グループ長、同部門主任研究員などを歴任し、2013年より中央大学人間総合理工学科教授。主な論文に「低圧損化した移動層型デシカント空調の除湿特性」(2013)、「専門分野は、反応工学・プロセスシステム、流動層工学、空調。おもな研究テーマは、粒子分散型デシカント空調システム、化学ループ技術など。

学生に期待する
3つの資質

  • 資質1多方面に対する好奇心
  • 資質2発送の柔軟性
  • 資質3実験的事実の重視

快適さと湿気の関係

人が「過ごしやすい」と感じる空間をつくるために大切なものは何でしょうか?
答えはひとつではありませんが、なかでも人間の皮膚感覚に大きな影響を与えるのが湿気です。テレビで、欧米から来た観光客が「日本の夏は湿気が多くて息苦しい」と言っているのを聞いたことがある方も多いでしょう。
アメリカのカリフォルニア州は湿度が低く快適な場所として知られていますが、気温が40度になってもさほど暑さを感じません。これは空気が乾燥しているため、汗をかいてもすぐに蒸発し体の熱を奪い涼しく感じるからです。しかし逆に、湿度の高い日本では汗がなかなか乾かず、暑苦しく過ごしにくく感じます。

私の研究室では、「デシカント」(乾燥剤や除湿剤という意味)をもちいた空調システム、すなわち「デシカント空調」を利用し、カリフォルニアのような過ごしやすい環境を作り出す研究を行っています。



除湿剤循環シュミレーション結果、アールフロー社製のDEMソフト”RFLOW”利用

省エネルギーで安心安全な空気をつくる

温度860℃の循環流動層石炭燃焼装置内
日本の夏期の電力消費の約25%は、空調が占めています。そして、その60%はなんと除湿に使用されています。つまり、除湿をいかに効率よく行えるかは、エネルギーの節約に大きく関わっていると言えるでしょう。
これまでの空調では、湿度をとるためだけに冷却し水分を凝縮させる必要がありました。そのため、かなり多くのエネルギーを消費しなければなりませんでした。しかし、デシカント空調では、乾燥剤で湿度を吸収するため、冷却の必要がなく余分な電力を消費しなくてすみます。また、デシカント空調は、低湿度を保ち体感温度が低く感じるだけではなく、湿気によるカビや雑菌の繁殖を抑えられるので、安心安全な空気を作り出すことができます。

デシカント空調の画期的なポイントは等温除湿が容易であることです。乾燥剤が吸湿する時には水の潜熱を放出するため、乾燥剤と空気の温度を上げてしまいます。両方を冷却する必要がありますが、市販されている装置ではこの冷却が大変なことになります。固気系流動層を利用するとこれが簡単にできるようになり、また、除湿性能が向上します。そのため、半導体やリチウム電池を作る時に必須となる非常に乾燥した空気を容易に作ることが出来るようになります。

このように、デシカント空調は従来の空調システムよりも省エネで効率よく快適な空間を作り出すことができるのです。

エネルギーと健康分野

地球上のエネルギーには限りがあります。エネルギーを賢く利用し節約することや、再生可能なエネルギーについて考えることは、いかなる分野にも必要不可欠です。

人間総合理工学科には人間の暮らしを豊かにするという共通の目的のもと、さまざまな研究分野が集結しているため、他分野との共同研究の可能性が無限にあります。
例えば、粒子を利用した「健康維持システム」の研究を進める予定ですが、これはスポーツ健康科学や認知脳科学の専門家の先生方の協力なしでは成り立ちません。
これから研究室に入る学生の皆さんには、こうした異分野との関わりのなかで、フレッシュな発想や今までの研究からヒントを得た進化形を生み出してくれることを期待しています。

普段から身の回りの物事に疑問をもつ

人間の暮らしは、エネルギーなしでは成り立ちません。将来、持続可能なエネルギーの研究はますます重要になるはずです。
エネルギー分野に興味がある人は、普段から日常生活のなかで自分の身の回りにあるものの仕組みについて意識する習慣をつけるとよいでしょう。

家で毎日当たり前のように使っているエアコンひとつをとっても、「除湿はどうやって行われているのだろう」と少し立ち止まって疑問をもち、本やインターネットで調べることによって、見える世界が変わるかもしれません。そういった積み重ねが、研究の際に革新的なアイディアやテーマの誕生につながるでしょう。


「微粒子の流動層」

幡野先生の研究を理解するためのキーワード4

  • 1. 固気系流動層内の現象解明(粉粒体内現象の可視化法開発)

    私たちの身の回りには粒や粉(*1)があふれていますが、これらは液体とくらべて扱いがやっかいです。小さい頃に砂山を作って遊んだ経験からもわかるように、粒や粉は簡単に流れたりしません。これは粒や砂の取り扱いが難しい理由のひとつですが、これらの中に気体を吹き込むと泡が生じて液体と同じように扱えることをご存知でしたか?このように液体のようにすることを流動化といい、工業的には流動層(流動床)と呼ばれる装置として広く使われています。しかし流動層の設計は、液体を扱う装置の設計とは異なって一筋縄ではいきません。その理由の一つとして、粉や粒は内部の様子を見ることができないということが挙げられます。そのため、見えないものを見えるようにするものが可視化法といった測定法が必要になります。粉や泡の動きを調べることが出来ると内部の現象が分かり設計が容易になります。
    これまで幡野先生は、光ファイバーやイメージファイバー(*2)をもちいた粒や泡の可視化方法を試してきました。その結果、砂や粒の中の気泡の合体の仕方によって、さまざまなちがいが生じることが明らかになりました。例えば、流動層から粉が飛び出る現象はガス速度の4-6乗に依存、自然界の現象としては異常に高い依存性となるというようなことです。(一般的には0.1~0.5乗程度の依存性)。
    ※1  粉は非常に細かなもの、粒はそれより大きなもの(固体粒子とも呼ぶ)。
    ※2 イメージファイバーを使った可視化方法は特許取得済。
  • 2. 高効率エネルギー利用と二酸化炭素回収(化学ループ燃焼・ガス化)

    地球温暖化対策として二酸化炭素排出量を減らす努力を現実のものとして進めていくことが求められるようになりました。しかし、エネルギー源としてはまだまだ化石燃料、しかも二酸化炭素排出量が多い石炭を多量に使わないといけません。二酸化炭素を容易に回収しながら回収に要するエネルギーが不要となる化学ループ燃焼やガス化は、もともと日本から発信された革新的な方法でしたが、最近は欧米や中国などに技術開発の面で追い抜かれてしまいました。幡野研ではこれまで基礎研究を行ってきました。日本国内でも実用化を目指したさまざまなプロジェクトが計画されていますので、今後も引き続きこれらの支援研究を進めていく予定です。
  • 3. 健康的な生活環境(デシカント空調:除湿空調、美容と健康器具開発)

    工学は最終的には人の生活を豊かにするものでなくてはいけません。幡野研では安全で快適な生活を送るために必要な空気質の改善や美容や健康を維持・増進するために流動層を応用した装置の研究開発を進めています。空気質の改善は先の説明で行いましたので、ここでは、中大に移ってから新しく始めた美容や健康に関わる装置の説明をします。
    指宿にある砂風呂というのをご存知でしょうか?暖かい砂の中に身体を埋めて身体の芯まで温まるものです。流動層の中に身体を入れると、暖かい砂が常に身体に当たりますから、身体の温まり方が非常に高いものになります。また、砂の当たり方を適度に調節すれば刺激効果が期待され、さらに血行を良くし美容にも効果があると考えられます。ただし、普通の流動層を使うのでは流動化のための空気量が膨大になります、すなわちエネルギーを多量に使うことになります。これらも抑制しながら美容と健康増進を図ることを目指して、研究を開始したところです。現在は基本的な装置を作製した段階で具体的な効果はこれから確認するところですが、この研究は様々な専門の先生方の協力を得ないと進められません。まさに、Integrated Science and Engineeringを実現できる例の一つでは無いかと思います。
  • 4. システム評価(エネルギーの質と量からみた評価)

    色々なプロセスシステムのエネルギー収支や物質収支を学びます。これにエネルギーの質を扱うエクセルギー解析についても学びます。
    何故でしょうか?私たちが車を買う時のことを参考にして説明します。まず、カタログをみたり、評判を聞いたりしますね。その時に、仕様表も見て馬力、最高速度、乗車定員、燃費、室内の広さ、装備品など様々なことを参考にします。また、外観、内装といったデザイン面も参考にしますし、価格も非常に気にします。最終的には最も重視する項目で決めてしまうことが多いのでは無いでしょうか?
    新しく開発するプロセスシステムの評価も同様なものと言えます。しかし、私たちはなかなかそれらについて想像することが出来ません。そこで、最初に述べたエネルギー収支や物質収支、さらにエネルギーの質を容易に取り扱える図式エクセルギー解析を学びます。これらは熱力学をベースにしていますから、絶対的な基準と言えます。もちろん、これだけで決まる訳ではありませんが、仕様表の一項目として重要なものとなります。これが分かることでどのような開発に当たることが出来ます。