大橋靖雄 教授

Yasuo Oohashi

生物統計学研究室

<専門分野>
疫学・生物統計学
<研究テーマ>
臨床試験のデザインとデータ解析・がん予防

Profile :
福島県生まれ。1976年、東京大学工学部計数工学科(数理コース)卒業。1982年、東京大学工学博士(論文博士)。1979年に東京大学工学部助手となり、1990年、東京大学医学部教授(組織変更を経て、最終所属は医学系研究科公共健康医学専攻)。1992年、東京大学にて、日本初となる生物統計学の講座を開設。2014年4月より現職。現在、日本計量生物学会会長、一般財団法人日本臨床試験学会代表理事など生物統計学に関連する諸団体の役員を務める。主な著書としては、『生物統計学の世界』、『生存時間解析と臨床研究-SASによる生物統計』などがある。また、がん検診を中心とする予防・疫学研究にも力を入れている。

学生に期待する
3つの資質

  • 資質1簡単に判った気にならないこと
  • 資質2若いうちに様々な芸術・芸能に触れること
  • 資質3相手が楽しんでくれるように話せること
生物統計学の側面から、
人間の健康な生活を支える。

健康にまつわる因果関係を探る

「○○はがん予防に良い」「△△が治る新薬が開発された」「××は人体に悪影響あり」など、毎日のようにテレビやインターネットで目にする医療や健康関連のニュース。
残念ながら、中にはきちんとした方法で効果が証明されないうちに報道されているものも多くあります。
私の研究室では、人が安心して健康的な生活を送れるように、こういった医療や予防疫学にまつわるテーマを、生物統計学の立場から扱っています。
そして、本当にAという病気に対して、Bという新薬や食品が効いているのか、あるいはCという物質が悪影響を及ぼしているのかなど、因果関係を探ります。

医療・健康に関わる技術評価に貢献する

「乳がん検診」という言葉を聞いたことがあると思います。
最近、20~30代の女性に向けて乳がん検診を推奨するキャンペーンがマスコミを通じて大々的に行われました。しかし、疫学調査の結果、若年者に対する検診の有効性は確認できず、私は他の専門家の方々とともにキャンペーン反対の要望書を提出しました。

乳がん検診では、品質管理と標準化が十分ではないと、ある確率でがんではない女性の乳房が切られてしまうことが起こり得ます。また、20~30代では精密検査の必要ありと診断された女性たちは針で細胞を取られる痛みと不安に耐えなければなりません。しかし大きなストレスにも関わらず、結果的にがんではなかったというケースがほとんどなのです。
こうした不安や痛みのほかにも、放射線の不要な被曝、医療資源の無駄づかいなど、がん検診における不利益はいろいろ考えられます。もちろん、がんの早期発見の可能性があるという利益も期待できますが、若年女性の乳がんについては、現時点では不利益の方がずっと大きく、バランスがとれていません。

私たちは40代女性に超音波検査を行うことに意味があるかどうか調べる大規模(76,000人)な研究を行っていますが、生物統計学は、客観的なデータに基づいて、こういった医療と健康に関わる技術評価を行う上で大きな貢献をしています。

中立性と倫理観の重要性

たとえば、あなたの大切な人が重い病気を患ったとします。そのとき病院で処方される薬が、実は製薬会社の利益ばかりを考えてつくられた薬だったらどう思うでしょうか?あるいは、薬の効果がきちんと証明されていないうえに、副作用が十分調べられていなかったとしたら?生物統計学は、こうした不安を取り除くうえでも大きな役割を担っています。ここで重要になるのが、生物統計学者の中立性と倫理観です。

従来、日本の治験(新薬の臨床試験)は他国とくらべて産業保護的な側面がありました。その状況を打破するために、1998年、日本でもGCPという信頼性確保のためのガイドラインが施行され、国際的に高い水準の治験が行われるようになりました。GCPでは、臨床試験で得たデータを、生物統計学の専門家が解析することが実質的に義務付けられています。
生物統計学者は、「新しい薬や治療法が、どのように患者さんに変化を及ぼすのか」を客観的に評価しなければなりません。ところが2013年、ショッキングな事件が起こりました。ある高血圧治療薬の臨床試験を実施しているメンバーのなかに、中立的な生物統計学者と称して関連製薬会社の社員が潜入していたことが発覚したのです。このような事件もあり、近年、あらためて臨床試験にまつわる中立性や倫理観が問われています。生物統計学者は、自分の仕事が社会全体にどのような影響を及ぼすかを自覚することが大切です。

中央大学人間総合理工学科は、人間の幸せな暮らしを追求するという共通の目的のもと、多様な分野の専門家の方々が集まり、学生の皆さんの視野を広げてくれる場所です。
この恵まれた環境の中で、異なる立場の方々と意見を交換しながら、社会全体の利益のために物事を考えることができる、未来の生物統計学者が育ってくれることを期待しています。

大橋先生の研究を理解するためのキーワード4

  • 1. 疫学

    疫学とは、人間集団を対象として、疫病と健康にかかわる要因を明らかにし、予防につなげる実践の学問。地域や学校・職場などで、特定の病気や健康状態に影響を与える生活習慣や遺伝、環境などの因子を解析する。たとえば、ある地域の食生活を調査し、がんなどの病気との関係性を探り、どういった食事をすれば病気を予防することができるかを探る研究などがある。
  • 2. 生物統計学

    生物統計学とは、基礎・臨床・疫学といった医学研究において、どのようにデータをとるか(調査 計画・実験計画)、どのように解析するか(統計解析)の方法論を提供する応用統計学。1992年、大橋先生は、日本初の生物統計学の講座を東京大学で開設した。以降、多くの学生が大橋先生のもとで生物統計学を学び、その知識を生かして幅広い分野で活躍している。ベストセラー書籍『統計学が最強の学問である』の著者、西内啓氏もそのひとりである。
  • 3. 統計検定2級

    大橋先生は、研究室に所属する学生に、統計検定2級取得を推奨している。統計検定とは、統計に関する知識や活用力を評価する全国統一試験。 データに基づいて客観的に判断し、科学的に問題を解決する能力をはかる。日本統計学会が認定して、一般社団法人 統計質保証推進協会が実施している。2級では、大学の基礎科目レベルの統計知識の習得度、そして統計学を活用するための理解度などをチェックすることができる。
  • 4. EBN推進委員会

    2014年4月1日、大橋先生を中心に設立された団体。EBN(Evidence Based Nutrition, 健康に関する科学的根拠に基づいた栄養摂取・食事管理)という概念の普及をとおして、社会における健康情報の正確性や食の安全性を高めることを目的とする。具体的には、消費者の食品素材や成分への関心・理解を促進する活動を展開。また、企業や団体に対してエビデンス(科学的根拠)構築のサポート、ブランディングやプロモーションなどのコミュニケーション開発なども行う。