人間総合理工学科の3年生必修科目、環境エネルギー・自然誌実習にて、寄生蜂(ハネナシヒメバチ属の一種)がクモの卵のうに寄生するという珍しい生態が明らかになりました。当学科3年生の村田遼大くんが採集したクモから得られた貴重な発見です。
人間総合理工学科では3年次に必修の実習科目として、「環境エネルギー・自然誌実習」を実施しています。このうち自然誌実習のパートでは、学生が実際に屋外のフィールドに出て、昆虫やクモなどの小動物を採集し、その観察やスケッチ、飼育等を通して自然観察スキルを身につけていきます。
今回のフィールドは、東京都稲城市の里山。ここで村田くんは、コモリグモ科のウヅキコモリグモ(学名Pardosa astrigera)を見つけました。コモリグモというのはその名のごとく、メスが腹部に卵のう(卵が多数入った袋)や幼クモを抱えて保護するという習性持っています。村田くんは、卵のうを抱えたウヅキコモリグモを採集し、しばらく育ててみることにいたしました。いずれ子グモが生まれてくることを期待して・・・
ところが、生まれてきたのは、なんと寄生蜂!村田くんによると、「卵のうがクモのお尻についていたので、クモの誕生を待って飼っていたら蜂が出てきてワオという感じ」。
しかし、ここで終わらないのが、人間総合理工学科の学生。問題自体の設定から始めるという「問題解決能力」を発揮し、この現象の意義を探求し始めました。そして、調べたところ、どうやらこの寄生蜂はハネナシヒメバチの仲間であるらしい。でも、ハネナシヒメバチの仲間は、昆虫の繭に寄生するはずなのに、なぜかクモの卵のうに寄生。そこで過去の例を調べてみると、ハネナシヒメバチ属の一種がオオアシコモリグモ属の一種の卵のうに寄生することはかろうじて報告されてはいました。しかし、標本がなく、さらなる確証が必要という状態でした。
今回初めて標本が得られたということで、種の同定作業に入ったわけですが、実は、寄生蜂の同定は困難を極める作業なのです。そこで、高田まゆら准教授が農研機構・農業環境変動研究センターの馬場友希上級研究員と大阪市立自然史博物館の松本吏樹郎主任学芸員と協力して、やはり、ヒメバチ科のハネナシヒメバチ属(Phygadeuontinae,Gelis)の一種であるところまではつきとめました。しかし、完全な種の同定にはいたりませんでした。ハネナシヒメバチ属には未記載、未記録の種も多数あるとされており、今回の珍しい生態も考慮すると、新種(未記載種)である可能性もありえます。この未来の発見に向けて、標本の確保は極めて重要な第一歩と言えます。
今回の発見は、クモの専門誌である
KISHIDAIA, No.118, p12-13, Feb. 2021に報告されました。
大学の演習科目というと、マニュアルに沿って、手順通りに進めていくものというイメージがあるかもしれませんが、このように、人間総合理工学科の演習科目では、筋書きのないドラマが展開することも多々あります。今回のように、意外な寄生蜂がクモ卵のうへ寄生するという新たな態が明らかになったりと、予想を超えた発見が体験できることもあるのです!
しかも、今回は、コロナ禍のオンラインでの実施。そんな中でも学生の観察眼がしっかりと育まれたということで、オンライン授業にも手を抜かない、人間総合理工学科ならではの教育力が実証される成果となりました。