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保全生態学研究室

Human’s cooerdination vol.「中島博士の昆虫雑記2『広がる昆虫 ~その1~』」

地球上には膨大な種類の昆虫が分布しています(前の記事URL)。彼らは私たち人類と共に長い時を過ごしてきました。しかし今日、その分布には大きな変化が生じており、背景には人類の営みが深くかかわっています。これから2回に分けて、日本で実際に起きている例を挙げながら解説いたします。

 

分布を広げる外来昆虫

 近年、多くの昆虫が本来の分布とは違う地域で見つかっています。こうした種は外来種と呼ばれ、大きく2つのタイプに分けられます。国外から持ち込まれた国外由来の外来種と国内の他の地域から分布を広げた国内由来の外来種です(図1)。両者は共に侵入先の生態系を脅かす恐れがあります。

【図1:国内・国外由来の外来種】


 

国外由来の外来種

外来昆虫に関して、ヒアリなどの危険な種はニュースで取り上げられることがあります。しかし、これは氷山の一角にすぎません。他にも多くの外来昆虫が人知れず被害を拡大させています。今回は街路樹を食害して枯らすカミキリムシを紹介します。外来カミキリムシは輸入材を包む木屑などの梱包材と共に国内に侵入すると言われています。中にもぐっているため、外からは気付かれにくいのです。さらに厄介なことに、成虫が在来種と似た形をしているものがおり、侵入後も被害が拡大するまで気付かれない恐れがあります。例えば、中国大陸に生息するツヤハダゴマダラカミキリという外来種は、在来種のゴマダラカミキリととてもよく似ています(図2)。ツヤハダゴマダラカミキリは複数の樹種を餌として利用出来るので、侵入した場合、防除が上手くいかなければ、国内で被害が広がっていく恐れがあります。2021年現在、環境省のサイトでは国内未定着となっています。しかし、今年に入ってから福島県・茨城県・兵庫県で繁殖していることが明らかになりました。本種の様に、在来種と似た種は個体数がある程度増えるまで気付かれない場合があります。

【図2:ゴマダラカミキリとツヤハダゴマダラカミキリ】 形や模様の違いはいくつかありますが、慣れないと一目見ただけでは違いがわかりません。


 

国内由来の外来種

同じ国の昆虫であっても、離れた地域から侵入してきた個体は異物となることがあります。例えば、本来は九州南部に生息しているサツマゴキブリ(図3左)という大型のゴキブリは、現在遠く離れた伊豆諸島にも侵入し、定着しています。筆者は伊豆諸島の御蔵島で、野外に設置された倉庫内におびただしい数のサツマゴキブリがひしめいているのを見たことがあります。本種は複数の病原体やアレルギー物質を媒介する可能性があるため、今後の増殖によって問題が発生する恐れがあります。

他にも、現在は都内でもよく見かけるツマグロヒョウモン(図3右)というチョウは、園芸植物としても利用されるスミレの害虫として知られています。本種はかつて、九州と四国地方に分布するチョウでした。しかし、温暖化による気温の上昇に加えて、1990年代に餌となる園芸植物のパンジーが全国に出荷されたことで北上し、定着したと言われています。

【図3:サツマゴキブリとツマグロヒョウモン】 サツマゴキブリ(左)、ツマグロヒョウモン(右)


 

まとメモ

日本には国外・国内から様々な外来種が侵入してきています。今後も温暖化や物流が続く限り、外来種は増えてゆくことが予想されます。海外の事例なども参考にしつつ、侵入が懸念される予備軍的な種については、それらが及ぼすリスクを事前に調査しておく必要があります。

今回紹介した外来種の昆虫は、意図せずに侵入し、分布を広げてしまったものです。これらに加えて、外来種の中には、人間が利用するために持ち込み、逃げ出して被害を発生させるものも含まれます。次回はそういった人間が意図的に持ち込んでしまった外来種について紹介いたします。