檀一平太 教授

Ippeita Dan

応用認知脳科学研究室

<専門分野>
脳科学・サイコメトリクス・食認知科学
<研究テーマ>
fNIRS脳機能イメージング、ニューロマーケティング、消費者認知構造分析、ポジティブ認知工学
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Profile :
1969年生まれ。国際基督教大学教養学部理学科生物学専攻卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程中退。日本学術振興会特別研究員、科学技術振興事業団研究員、健康食品会社営業員等を経て、食品総合研究所に入所。PD、研究員、主任研究員、自治医科大学医学部先端医療 技術開発センター准教授を経て、現在、中央大学理工学部人間総合理工学科教授。学術博士。キャリア初期の専門分野は分子生物学。その後、脳科学と食品科学の融合分野の開拓に従事し、現在の主な研究テーマは、光脳機能イメージング法の空間解析手法の開発、および、心理統計学による食生活QoLの解析等。2007年に味覚記憶の脳機能イメージング研究により安藤百福賞発明発見奨励賞受賞。研究の傍ら、筑波山麓の里山にて菜園生活を営んでいる。

学生に期待する
3つの資質

  • 資質1研究だけでなく、社会実装を目指すこと
  • 資質2行動を見つめ直す姿勢を常に持つこと
  • 資質3学んだことを応用する知恵を鍛えること
脳機能解析学と食認知科学により
人間の暮らしを豊かにする。
 

単なる脳機能の研究ではなく脳機能検査の社会実装へ

私の研究室では「脳機能解析学」と「食認知科学」の2つの方向から研究をすすめます。
「脳機能解析学」では、脳の機能を研究するだけではなく、脳機能の変化を指標にした新しい診断法の開発など、社会実装を目指した研究を展開しています。たとえば「光トポグラフィ」(近赤外線を利用して脳の働きを観察する検査)に脳構造画像のデータベースを組み合わせることによって、より使いやすい技術に進化させ、臨床応用の範囲を広げるといった研究です。

「メタ認知」などで脳の特性をうまく制御して効率的な学びを

指導のうえでも、脳をいかに制御するかを考えます。
たとえば、脳は変化を嫌います。だから、大学での生活も単調になりがちです。でも、自分がおかれている日常を少し上の観点から捉える“メタ認知”を活用すれば、いま大学で学ぶことの意味を考え、行動を見つめ直す姿勢をつねに持つことができます。

講義では長所を伸ばして余裕を持ち、そこから短所を克服するというスタイルを奨励しています。脳の仕組みを考えると、「わかった」という体験は大きな快感を伴うもので、学習を促す効果があります。また、関与が深いほど理解も深まるので、どのような科目も後で役立つことを考えて(メタ認知を働かせて)積極的に取り組んでほしいと思います。

講義では様々な脳の仕組みを紹介しますが、これらの知識を単に暗記するのではなく、うまく活用して学びに取り入れてほしいと思います。

異分野における相互作用がもたらす発見

「食認知科学」では、食品や食事を人の脳がどうとらえるかを研究します。
その中心となる技術はサイコメトリクス(心理測定法)です。これは、入念に設計された一連の質問、つまり、「人の心をはかる物差し」によって、人の思考を定量化する技術です。

人の思考は曖昧に思えますが、日々の気分によるばらつきもふまえた上で、適切な統計的アプローチを施せば、定量することが可能です。この技術を食品開発に応用し、消費者が気づいていなかったニーズを掘り起こします。これによって、日本の食品産業を盛り上げることを目指しています。
サイコメトリクスと脳機能解析の両方を使うのは、シナジー効果があるからです。両者には研究手法に関して多くの共通点があり、両者を相互に活用することで多くの発見がえられるからです。

私のラボでは、異分野におけるインタラクション(相互作用)は日常的に行われています。これによって、革新的な研究成果が生れていくことを期待しています。

分野を戦略的に組み合わせ、問題解決を図れる人材に

本学科での研究は、ただ異分野を掛け合わせることが目的ではありません。
コミュニケーションを密にとりながら異分野の知識を戦略的に組み合わせることが必要です。このためには、自身で問題を発見し、複数の教員に指導を仰いで互いに問題を共有し、共に解決をめざしていくという場を設けています。
これが従来の大学教育との大きな違いと言えるでしょう。そして、どの分野を組み合わせ、どのようにコラボレーションを展開させるかには「メタ認知」に代表される戦略的思考が必要になってきます。

人間総合理工学科で学んだ人材は、問題自体を設定でき、その解決を目指す能力を涵養できるので、理系・文系といった枠組みにとらわれず、あらゆる領域での活躍が期待できるでしょう。なお、最先端の情報や文献は英語によるものが圧倒的多数を占めています。このため、「英語を」ではなく「英語で」学ぶ力は必須です。また、「知識」はすぐに古くなりますが、学んだことを応用する「知恵」は自分の財産として残ります。

大学は「知恵」を鍛える場と考え、勉強に励んでください。その過程があなたの財産となり、未来の社会への貢献につながるでしょう。
これによって、人々の生活の質(QoL)が向上し、より暮らしやすい社会、そして願わくば、“地球にやさしい”持続可能な社会が実現することを期待しています。

檀研を理解するためのキーワード4

  • 1. fNIRS(近赤外分光分析法)の臨床応用

    fNIRS(機能的近赤外分光分析法、光トポグラフィ)は頭皮の上に設置したプローブから大脳外側部の血流動態を計測する方法である。非侵襲、低拘束性、低コスト、装置のコンパクトさ、測定時の体動許容性といった特徴から、研究のみならず、様々な臨床応用への展開が期待されている。檀研究室では、前任校の自治医科大学等と共同で、fNIRSによるADHD(注意欠陥多動性障害)児の治療モニタリング、脳疾患の失語症検査に関する脳機能のイメージングなど、fNIRSの臨床応用を加速させる支援研究を実施している。
  • 2. fNIRS脳機能イメージングの手法開発

    fNIRSが誕生したのは1993年。ほぼ同時期に誕生した脳機能イメージング法であるfMRIでは、計測されたデータの解析法がほぼ標準化している一方、fNIRSの計測手法は未だに発展途上である。特に、fNIRSは頭の上に計測プローブを置いて光で脳の機能を測るため、fNIRS単独では脳のどこを測っているかがわからないという問題があった。この解決策として、檀研究室では、脳の構造画像のデータベースを活用し、fNIRS単独でも計測位置の推定を可能にする技術を確立した。さらに、fNIRSに最適化された統計解析手法の開発などを通して、fNIRS脳機能イメージング法の技術的進化に貢献している。
  • 3. サイコメトリクス

    檀研究室の課題は、ヒトの認知構造を可視化することである。しかし、脳機能イメージング法だけでは、脳のどこがいつ活動しているかがわかるだけ。そこで、ヒトが何を考えているか、より具体的な答を知るために、サイコメトリクスという方法を用いる。これは、徹底的に練られた質問の回答結果を、多変量解析などの高度な統計学的手法を用いて解析し、ヒトの認知構造をモデル化するアプローチである。我々は、サイコメトリクスを日本人の食生活の解析に応用し、その基本構造を明らかにするともに、共同研究を通して、日本におけるサイコメトリクスの産業応用の推進にも取り組んでいる。
  • 4. 英語力で勝負できる理系人材の育成

    高校時代に英語が得意でなかったので理系を選んだという学生をよく見かけるが、実際には、理系の方が文系よりもはるかに英語への依存度が高い。研究の参考となる論文はほとんどが英語であり、研究の発表先となる学術誌にも、英語で論文を書かなくてはならない。しかし、見方を変えれば、英語は無限の情報の海を航海するためのパスポートとも言えるだろう。檀研では、英語の習得を「激しく推奨」しており、卒業時までにTOEIC700点の取得をノルマとしている。実際に、檀研の指導を受けた研究者の多くがこの水準を達成しつつある。英語学習の要領は教えるので、あとはやる気次第である。